2002年6月 発行所 「50カラット会議」
50カラット会議レポート
25号
管理栄養士・医学博士 本多京子さんに聞く
「50代の食生活に提案したいこと」
「体が変わったのだから、食生活も転機」とはいうものの、何から手をつけたらいいものやらと迷ううちに、月日は飛ぶように過ぎていきます。あれが効く、これがお勧めという健康法よりも、暮らし方の立て直しが先決のように思えてきた昨今です。
たとえば、医食同源の考え方も、雑穀などスローフードの提案も、時間に追われている暮らしでは、取り入れることじたいに無理があることが分ってきました。「体に悪そうなものは避ける」が精一杯の食生活は、次第に心温まる食事風景からも遠くなっていくのを感じてもいます。そこで、「食事づくりと食べる時間を楽しむ暮らし」をめざす管理栄養士本多京子さんに、最近話題の「雑穀」を中心に、50代からの暮らしと食について、実践のための基礎知識を伺いました。
健康は勝ちとるもの。頭を使って理屈と技術を学び、手と時間をかけて実践することなくしては、質の高い食生活は得られないし、生きている時間を愛しむ気持ちがなければ実践不可能と、明解でした。
本多京子さんのご紹介
医学博士、管理栄養士として「本多ダイエットリサーチ」を主宰するかたわら、ハーブとアロマテラピーの専門店「ハーバートハウス」を開く。
ハーブとスパイスとの出会いは、20年前のアメリカ。塩と砂糖、油を控える料理に、日本の薬味中国の香味野菜とともに、活用を提案している。
近著に「あなたのカラダは食で変わる」柴田書店「食の医学館」監修・小学館。
提言のもくじ
1.「50代」がキーワードの時代です。
2.50代の体は、どう「変わり目」なのか。
3.カロリー減らして、栄養の質を高める方法
4.GI値と「雑穀」の健康性
5.「ハーブ&スパイス」クッキングの勧め
6.生活をスローにして、食べる時間大切に。
1.「50代」がキーワードの時代です。
もう何年も前になりますが、アメリカで『レッド・ホット・ママ』という本がヒットしたという話を聞きました。50代の人間が数的に一番多くなったアメリカで、50代のパワーについて書かれた本ということで、ベストセラーになったということでした。
日本では、人生わずか50年といわれて、50歳になると、人間が終わりという感覚があり現在でも、50代女性が、閉経すると女性じゃないとかいう感覚が残っているものの、最近では、50代自身の「なってみたら、元気はつらつ」という体感覚もあって、「50代」という年齢を見直す時代になりました。
化粧品メーカーの資生堂が「50代が美しくなれば、日本はもっと明るくなる」というキャッチフレーズを作りましたが、その頃から、シワはふえてくるけれど、キレイで可愛いお婆さんになりたいと、女性たちが目指し始めたのでしょう。アメリカでヒットした『レッド・ホット・ママ』にしても、資生堂のコピーにしても、50代に突入した団塊の世代の女性たちの共感を得たのだと思います。
50代は、女の人は更年期がテーマになり、子育てから解放されたと思ったら、自分の体に向き合わなくちゃならなくて、生活の仕方を立て直すための気持ちを言い当てている本やコピーにうなづいたのでしょう。それまでは、50代は年寄り扱い、終わりに近づいた人というテーマが多くて、いまを生きる人、これからの生活を輝かせようとしている人という切り口がなかったのですから。体を管理していくことの基本は、食生活。更年期を迎え、生活習慣病も気になる50代。体も変わったのだから、食生活も転機。50代の食生活へのヒントをお話します。
2.50代の体は、どう「変わり目」なのか。
まず、代謝が下がってくるから、体型は維持できないですよね。1年ごとに代謝が下がっていくわけですから、前の年と同じに維持しようと思ったら、前の年より1歳年を取るにしたがって、自分の体に課すものが多くなります。同じ体重、体型を維持しようとしたら、代謝を高める努力が必要です。
たとえば、エネルギーを抑えて、栄養を摂ることを考えなくちゃいけない。質を考えた食生活が必要になります。
分かりやすく言うと、エネルギーを摂らないで、ビタミン、ミネラル、ポリフェノール、食物繊維などを多めに摂るように、食事内容を工夫することが、一年ごとに必要になってくるということです。そうしなければ、それだけで太ります。そして、生活習慣病に対して、どんどん不利になるということです。
この傾向は、40代から始まっています。最近、「活性酸素」というのが体管理のキーワードになっています。
人間の体には、活性酸素というものが必要なのですが、これがオーバーしたとき、その分を処理するために、体の中で活性酸素を分解する酵素が働きます。この酵素は、カタラーゼとか、SDO酵素とかがありますが、酸素の活性度が、40歳の声を聞く頃から、どんどん下がっていくのです。つまり、40歳を過ぎると、自分の中で活性酸素を掃除できなくなってくるのです。そうすると、活性酸素が原因で、皮膚の老化とか、シミ、シワ、白髪、生活習慣病のもとになる動脈硬化などにつながるのです。けれど、対策は、急激劇的に変えようと考えないこと。少しずつ少しずつ変えていった方が、元気な年寄りになれます。今まで食べていたものを止めるという対策では、ストレスになるのではないでしょうか。
食べ物の選択って、とても頑固なものなんです。「衣服一代、家居二代、飲食は三代かかる」って言葉があって、食べ物のイメージを変えるのはすごく大変。洋服のスタイルとかは、すぐ流行にのるけれど、食べ物の習慣は変えにくいのです。
3.エネルギー量を減らして、栄養の質を高める方法
一番分かりやすい対策は、魚と野菜を食べることです。そして、ご飯はエネルギー源として、きちんと摂ること。
まず「ご飯」ですが、私たちの体を車にたとえると、ガソリンの役目です。生きていくためには、熱を維持しないと冷たくなりますし、動くエネルギーも要りますね。そのために、ご飯が要るのです。
エネルギーになる栄養素というのは、食べ物に含まれている栄養素の内、糖質、蛋白質、脂質という3つ。その他は、エネルギーになりません。
ビタミン、ミネラル、ポリフェノール、食物繊維は、ガソリンにはならない。そして、3つのガソリン源は、熱のもとだから「熱源」といいますが、そのうち最も重要なのが糖質です。これは、炭水化物ともいいますが、全摂取エネルギーの約55~60%を糖質から摂った方がいいのです。
けれど、糖質と言っても、お菓子とかジュースとかお砂糖というのもあるし、でんぷんも糖質。同じ糖質を、摂取カロリーの60%にするといっても、どのスタイルの糖質をとるのかを知っている必要があります。カロリー計算は合っていても、お菓子をご飯の代わりにするのか、ご飯を食べるのかですが、この違いは、「体の中での燃え方の差」です。同じ糖質でも、じっくり時間をかけて燃えるものもあれば、紙のように、パッと燃えてしまうものもあります。ご飯は、じっくり型。
「燃え方」というのは、簡単にいうと、血糖値をあげるスピード、インスリンの分泌状況です。生活習慣病が心配な年代になってくると、糖尿病も多いのですが、できれば「ゆっくり燃えて、食後の血糖値の上昇がなだらかなもので、同じ量のカロリーを摂る」ことが、予防につながるのです。
食べ方としては、まず自分に見合ったエネルギー量をとることが大事。そして、同じ量のエネルギー量を摂るのでも、燃え方を考えます。ゆっくり燃えて、食後の血糖値の上昇率がなだらかなものを選ことを心がけます。
パッと燃えるものだと、血糖値がパッと上がって、それを下げようとインスリンが分泌される。このとき、インスリンが多量に分泌されるので、その反動で反動性低血糖といって、高血糖のあとの低血糖がやってくる状態になるのです。その時、イライラするのですね。
イライラして落ち込んだりすると、また高血糖になりたいから、甘いものを食べたりする。
これが、気分の揺れを大きくすることにつながるので、気分の安定のためにも、ガソリンの安定供給というのが大切ということです。
インスリンの分泌量が少なくて済めば、体にも負担はかからずに済みます。
血糖上昇率をなだらかにしておきたければ、お菓子や甘いものよりも、ご飯のような粒状の物がいいのです。
最近では、ゆっくり燃える要素が入っている、つまり食物繊維の多い穀物ということで、 雑穀に注目が集まっていますが、体管理意識の高まりでしょうか。
キビ、アワ、ヒエ、アマランサスというのは、ビタミン、ミネラル、蛋白質の含有量が高いものがあって、優秀なものが多いのです。
ちょっと体型が気になるとか、生活習慣病が気になる人たちが、五穀粥に出会って魅力 を感じるのは、そんな背景があるからでしょう。
戦後は特に、おかずを色々食べて、ご飯は食べなくても良いという育ち方をしました。
そこはちょっと改訂しないといけない時代になってます。
PFCバランスというガソリン源になる蛋白質、脂質、糖質の中で、一番糖質を重要視しなければいけないのに、お米だけを食べなくなって、穀物エネルギーの比が低くなるのは良くないことです。
エネルギー摂取量全体としては、年々減ってるんですよね、今は。けれど、脂質摂取量は上がっていて、お米が減っているんです。
穀物を摂るということは、人間自身にとっても栄養のバランスが良くなることです。
ついでですが、穀物を家畜に食べさせて、肉を生産すると、飼料効率の点と、食料の循環から考えて、不利ですよね。
穀物を動物に与えて肉を生産するのはほどほどにして、穀物自体の食べ方を工夫した方が地球レベルの食料の配分を考えた時に、優しい食事というイメージ的なものがありますね。
4.GI値と「雑穀」の健康性
雑穀を食べればいいかと問われると、「食べたければ」と答えたいと思います。
例えば、GI(グリセミック・インデックス)というのも、ヨーロッパではブドウ糖ベースというのと、白パンベースというのがあって、日本では白米ベースに数値を求めていくんですけど、白米ベースで考えた時に、白米のGIというのを比べると、パスタの方が偉いんですよね。数値が低い。数字が低い方が太りにくく、体にも負担をかけないのです。GI値は、食べたものが血糖値を上げて空腹時の通常値に戻るまでの血糖上昇率。つまり、この数値が低いほど、腹持ちがいいし、エネルギーが持続して、がんばりがきくことになります。
数値が低いので、パスタがダイエットによいというのが流行ましたが、実際の食事では、パスタを生でかじるわけじゃない。パスタでも、どういう性状のパスタを何分茹でたかによって、GIが違うんですよ。そのパスタに何を組み合わせて食べたかで、GI値は変わります。素うどんならぬ、素パスタは食べないですよね。何かを入れるとGIが変わるんです。
白米なんかも、白いご飯を食べるのではなくて、酢飯にするとGIがすごく低くなるとか、牛乳を飲みながらご飯を食べるとGIが低くなります。
厳密に言えば、穀物自体の栄養と穀物と何かを組み合わせた時の栄養と、その両方を考えないといけないんです。GI値についてですが、日本でも分析は進んでいます。研究は、フィンランドが進んでいます。フィンランドは、遺伝的に糖尿病の割合がすごく多いということで、カロリー制限するだけではなくて、ある程度のものがしっかり摂れるようにしているそうです。
カロリーを下げなきゃいけないって言って、食べる量が減るとストレスになってしまうから、しっかり食べても体に負担がかからないっていうことが、非常に大きなテーマになるのです。そこで、GIの研究が1970年代から始まっているということです。
ブドウ糖ベースのものと、白パンベースのもので、私がフィンランドの先生から頂いたヨーロッパのデータには、600以上の食品が載ってましたね。
パスタにしても、色々な種類があるじゃないですか。どのパスタを何分茹でた時にどういう数字になるかっていうデータも、いっぱい出ています。
GIが全てではありませんが、献立の中でカロリーを考えた時、GIの考え方を入れていくと、ちゃんと食べても体に負担があまりかからないというメニューづくりの役には立つのかなという気がしました。
GI値の計り方は、どうやってやるかっていうと、ブドウ糖というのをベースにすると、ブドウ糖を50g飲ませて、食後15分ごとに、だいたい食後2時間までの血糖上昇率をベースにすることが多いんですけど、食べた時点から食後2時間までに、血糖値がどういう風に上がっていくかって、血中のブトウ糖を採ってグラフを描いていくんですよ。食事直後から2時間までの血糖曲線を描いて、その下の面積を出すんです。例えば、ブドウ糖を飲んだ時には、これだけの面積だった、と。次に、例えばパスタを食べた時、食後の血糖値はゆっくりしか上がらないで、ずっと長く続くんですよ。そのグラフを描いて、同じように面積を出す。そして、ベースとする食品の面積を100とした場合と比較して、いくつになるかという計算をして求めていくんです。
GIは、スポーツ栄養学に実践的に使われています。
瞬発力を必要とするような、重量挙げみいにガーッとやって勝負がついちゃうようなものに関しては、持久力は必要じゃないですよね。その時は、エネルギーが早くパーッと燃えた方が良いわけですから、GI値の高いものを食べないといけない。マラソンのように、途中でパタッと倒れちゃ勝負にならないものは、ゆっくり燃えるものを食べないといけません。スポーツの種類によって、瞬発力のいるものか、持久力のいるものかで違いますね。
GI値の管理は、ダイエットにも使えるし、ヨーロッパでGIが開発された一番の問題は、糖尿病の患者にちゃんとしたものを食べさせてあげながら、体の負担が少なくなるということと、スポーツ栄養学の2つですね。ダイエットはその次ですよね。GIとの関連性としては3番目。
ダイエットというのは、永遠のテーマですが、ダイエットは大きな努力で小さな成果しか出ないものですよね。ほとんどの人は、小さな努力で大きな成果を期待するから、魔法のキーワードというものを求めているんです。それが今は「GI値」なんです。
1)「雑穀」の健康性
白米に雑穀を混ぜたりしますけど、バランスは、そのお釜の中だけでは解決しません。
いくら雑穀を入れてもね。ただ、白米に雑穀を一定の%で混ぜて、若干バランスが良くなる。白米だけよりも、栄養のバランス、アミノ酸のバランス、ミネラルバランスとかが良くなります。それプラス、おかずとのバランスも考えないといけないのです。玄米を食べる時に、豚カツとセットになっているお弁当ってないですよね。それは、玄米のようにリンが多い食べ物を食べる時には、カルシウムとかマグネシウムの多い、ひじきの煮付けとか必ず付いてますよね。そういう献立だと、ミネラルバランスが良くなるからです。
例えば、おかずも含めて1日30品目食べましょうっていうのがありますよね。そうすると、白いご飯を雑穀入りに変えたということで、一緒に食べるおかずに影響はないんだろうかということですか?今まで白いご飯を食べていた人が、白米に五穀ミックスを2~3割混ぜて炊くのは、そんなに影響はないですね。そのレベルでは、ミネラルバランスが良くなったというところで終わりでしょう。雑穀を2~3割混ぜたご飯なら、おかずについてはあまりいじらなくてもいい。2割でも3割でも、とにかく全部を雑穀にするのでなければ変わりないです。雑穀を入れるということは、2~3割であれば、栄養補給というくらいの感覚で、昔のビタミン強化米みたいな感じです。それがビタミン剤じゃなくて、天然のものだということに価値があります。でも、雑穀しか食べないとなると、非常に不経済ですよ。
この頃、雑穀が注目されているのは、栄養的なプラスがあるということと、噛まなければいけないので歯ぐきの健康を保つのにいいとか、1粒蒔いたら実がいっぱい収穫できるという生命力などのイメージと両方なんじゃないでしょうか。自然が失われている時代だから、雑穀から自然のパワーをもらえそうな気がするっていう部分ですよね。それと、お米の中に入れて合わせて炊くと、楽。それも大きいでしょう。「雑穀」は、普通は、ヒエ、アワ、キビ、ソバとかソバ米とかそんな物ですよね。あとアマランサスなどをさしています。食べ方ですが、噛まないといけない。
雑穀のご飯って、冷えるとボソボソになる。それだけ食物繊維が多いから。食べる量も、普通のレベルで言う雑穀米だったら、普通のご飯と同じ量でいいです。同じ量のご飯と置き換えるなら、ほぼ似たようなエネルギー量なので、オーバーにならない。
エネルギー量が同じで、ビタミン、ミネラル、食物繊維、ポリフェノールが多ければ雑穀を入れた方が良いですよね。
但し、雑穀のご飯は、好き嫌いがありますよね。分かりやすく言うと、自然主義や風水が好きな方とか、そういう人が雑穀好きですよね。
私は大好きよ。雑穀を買ってない時はないですよ。うちには全部あります。ヒエ、アワ、キビ。素材の出所がはっきりしてる、目で見て分かるものを食べるようにしているので、雑穀米っていうのも、ブレンドされたものは好きじゃないですね。ヒエ、アワ、キビ、アマランサスとか、別々に全部買ってあるし、お豆も好きなので、色んな種類の豆を買ってあります。お豆は、水煮にして冷凍パックにして色んなことに使えますよね。
雑穀は、ご飯を炊く時に、毎日食べているわけではないんですけど、今日は何のおかずにしようかなって考えて、それに合う雑穀を入れていくんですよ。
2)「玄米」の健康性
玄米は、黒米、赤米共、お米の種類。雑穀ではありません。玄米菜食主義という人もいますけど、やっぱり食べ方は、勉強しなくちゃやっちゃいけないですね。栄養的に考えられるのは、玄米は白米に比べるとビタミンも多いし、食物繊維も多くてヘルシーな食材ということ。けれど、白米に比べて、糠とかが付いてるわけだから、それだけリンというミネラルがすごく多い食材です。50代を過ぎて骨粗しょう症が気になる世代の人が、カルシウムをキーワードにしたいと思っても、ただ摂っても素通りするんですよ。他のミネラルとか栄養素との相互作用がちゃんとできていないと、骨づくりには役に立たないんです。
その骨づくりの足を引っ張っている要素の一つがリンというミネラルで、白米より玄米の方がリンが多い。
従って玄米を食べると、ミネラルバランスが、自分達の目的にしているのと反対になっちゃう。良くない方にいっちゃうという欠点がありますよね。
玄米には不消化という欠点もあるのに、昔から、玄米で難病の胃腸病の人が良くなるんです。それは、玄米に栄養的な秘密の成分が入っているからではないのです。良く噛んでいると、唾液の分泌が良くなる。消化器は口から肛門までつながっているわけですから連動して作用します。噛んで唾液の分泌が良くなれば、胃や腸の働きもよくなるのです。それを続けているうちに、不消化の玄米を食べても、食べ方が正しければ、難病の胃腸病が治る。噛まなきゃダメです。玄米を食べる時にちゃんと勉強してると、「一口ごとに、あなたの歳の数だけ噛みなさい」っていうのがあります。「かめよ」の歌っていのを習うのだそうです。一口玄米を入れたら、かめよの歌をうたうと、最低でも30回は噛むんじゃなかったかしら。噛むことが大事なんですよね。
お粥を噛め、牛乳を噛めって言われても、噛めないじゃないですか、柔らかいから。でも、玄米だとモソモソしているから、玄米を口の中に入れてよく噛むのです。観念的にいうと、穀物を食べるってことは種を食べるってことだから、それを地面に蒔けばたくさんの実がなるわけでしょ。そのエネルギーの源が、1粒の穀物に入ってるんだからっていう感覚がとても強いですよね。白米は発芽しないじゃないですか。でも玄米は芽が出ますよね。やっぱり自然の発芽する物というのは、ビタミン、ミネラル、ポリフェノールが多いからですよ。生命を維持するのに必要な栄養素が入っているという、そういう言い方になります。
5.「雑穀の食べ方」は、頭を使って、手間をかけること。
おかずの合わせ方は、自分の味覚、好みで十分です。
洋風のお肉の料理で雑穀を使う場合には、むしろご飯として炊かないで、おかずの食材の一つとして、雑穀を使うというのも手です。
モチアワとかモチキビって、トロッと柔らかくなりますよね。ああいうものと人参のすり下ろしものとコロッケにするとかね。私は、洋風の時にはそういう使い方をします。ご飯の中に雑穀を入れるのは、和風のおかずの時にしかしませんね、合わないから。今日はハンバーグだっていう時に、五穀米を炊こうとは思わない。美味しくないです。「雑穀」には、穀物の甘みがあるでしょ、すごく。コクとか甘みが強くなるので、調味料が強かったり、油っこくないメニューの方が、穀物の旨味が生きますよ。だから、雑穀を混ぜてご飯を炊くのは、和食の時。相性がいいですよね。強い物とは組み合わせないようにしています。味付けも、薄味のおかずとの組み合わせの方が、雑穀の味わいを感じることができると思います。
黒豆とかも、ご飯と一緒に炊いちゃうんですよ。今日の夜、白米を炊いたら、次の日に、冷たいご飯が残っても、何にでも加工ができますよね。おにぎりにもなるし、チャーハンにもなるし。だから、次の日のメニューとのつながりも考えますね。かなり計画的に繰り回していくというか、明日の献立まで考えながら組み立てます。おかずとして使う場合は、五穀米のように混ぜません。雑穀を入れた五穀米に、パワーがあるという風にどうしても感じてしまうのは、五行説ですよね。(「五行説」後述)五行説に、穀物が当てはめられているじゃないですか。
自然と自分の体内との調和っていう意味があって、五行説っていうのが中国医学の漢方にあるでしょ。それで「五」というのがキーワードになってるんです。元々、中国では五という数字がベースになっていますよね。地上の物も、生き物も、自然の循環も、自分の体の中も、全て五つの物がキーワードになっているのです。五穀米の五って、何を意味しているかというのは、色々調べてみましたが、組合せの種類は、産地によって違うようです。
暖かい所と、寒い所では出来てくる穀物の種類が違いますよね。ですから違う。土地によって、五つの雑穀を選ぶ時の、栄養がある、体に良いっていう選び方が違うのです。
昔から、五つの穀物を揃えて炊き込む。そうするとバランスがとても良くなるから、体に非常に優しい、体に良い食べ方だとされています。
栄養学から見ると、雑穀の利点は、ビタミン、ミネラル、食物繊維、ポリフェノールが足し算できるっていうことですね。精米した物よりも、精米していない雑穀を食べるようにすれば、それらがプラスされる。そこしかないです。
赤米、黒米は古代米と言われて、アミノ酸の組成も違って、食べた感じも違いますが一番の栄養的なポイントは、アントシアニンという色素つまりポリフェノールが入っているということです。でも、ナスの皮にもブドウの皮にだって同じものは入っている。そういう物で摂っても構いません
6.「ハーブ&スパイス」クッキングのすすめ
20年近く前からハーブ&アロマテラピーのお店を経営しています。栄養学の世界からハーブやスパイスに興味を持ちました。
食生活が地球レベルになってきたので、和食だけ食べて狭い世界に閉じこもっているという時代でもない。けれど、洋風の物は、日本人の体に根本的には合わないということもあります。そんなテーマにも関心がありました。
洋風のお料理、アメリカでもフランスでも、どこでもいいんですけど、日本の国以外のお料理を食べる場合の欠点は、やはり油ですよね。
アメリカでは、マクガバン委員会を始め、食生活の指導を国を挙げてやって、ある程度成功している国です。
20年位前、アメリカに行った時のことです。毎回、西海岸なら西海岸に訪れた時には、同じ地域の店を訪ねています。そうすると変遷が分かるので。
20年前に訪れた時に、行くたびに訪ねているお店に行ったら、確かに記憶しているお店に行ったんですけど、私が記憶しているのと屋号が違ったんです。オーナー人が変わったのかなと思ったら、お店の人が「1年半前にオーナーがチェンジしました」って。
お店の商品を見ていたら、その頃“アメリカ人はビタミン剤を食べている”という表現があるくらい、ビタミンが大好きだったんです。棚には、確かにカプセルや錠剤などの健康食品がバーッと並んでいるんですけど、それらは私が記憶している、前のお店のラベルが貼ってありましたお店の人は、確かに1年半前にオーナーチェンジしたって言ったのに、前のお店のラベルが貼ってあるということは、この商品が1年半動いていないんだっていうことになりますよね。
お店にお客さんが来てないわけじゃないんですよ。じゃあ、お客さんは何を買っているんだろうと思って、買っている様子を見ていたら、「HERB」と書いてある棚の前で商品を選んでいる人が、非常に多かったんです。
これハーブだと思ったんですけど、その頃の私は、山之内製薬のスイスハーブキャンディーしか知らなかった。だから、キャンディーの素なのかしら?と思ってよく見たら、花とか葉っぱの干からびた物がビニール袋に入って、何gずつかパッケージになって売っていたんです。
アメリカでは、干した実とか花とか、ハーブって書いてあるけど、お茶を作るのかしら?料理を作るのかしら?何に使うんだろうと思いました。
同時に、色々本を買ったり、ヘルスフーズが売っているお店で本を調べてみたら、アメリカの農務省が「国民が健康になるためには、食生活の改善が第一で、キーワードになっているのは、塩・砂糖・油だ」っていう言葉が載っかっていたのです。
でも、美味しさの決め手が塩・砂糖・油だから、美味しさの決め手を欠いた料理は、体に良いかもしれないけど、まずいから長続きしない。
人間は、美味しい物を食べて健康にってならないと、本来の姿じゃないから長続きしない。「だから、ハーブ&スパイスを上手に使いなさい」って、その農務省の本に書いてあったのです。
そこで、ハーブやスパイスって、そういう使い方が出来るのかしら?っていう風に思ったのが、ハーブやスパイスに興味を持ったきっかけです。なんとか塩・砂糖・油を減らして、外国風のお料理を、自分の食生活の中にヘルシーに入れられたらいいなと思って。ハーブやスパイスの中には、中国でも漢方薬になっている物がたくさんありますよね。
料理が塩・砂糖・油を減らして、なおかつ美味しくなって、しかも薬理効果がちょっとでも期待できるような物を、料理を美味しくする素材として入れられたら、こんなに良いことはないんじゃないかって思ったのが、20年位前だったのです。この頃のお料理の考え方の中に、50代の体を考えた時に、やはりその3つ(塩・砂糖・油)を控えなさいっていうのがありますよね。けれど、ただ引いていくと、ヘルシーにはなりますが、まずくなっちゃう。
食べるというのは、一番楽しいことなので、どういう風にしたらいいのか考えました。
アメリカはハーブやスパイスの歴史がない。調味料も、ケチャップとレモンの国かなという気がするじゃないですか。ですから、ハーブもスパイスも使われていなかったので、上手にアレンジするという観点で見るっていうのが面白いと思いました。ですから一番最初は、アメリカナイズされたハーブやスパイスの世界から入りました。後から色々調べていったら、本場はイギリスだったんだと分かって、それからイギリスを研究し始めました。
そしてその結果、「ハーブのお店を開きます」って、知り合いの方にお手紙を出したら、「先生、楽器を弾くとは知らなかった」って言われました。そんな時代だったのです。リキュールを作るのにも、ハーブ系とフルーツ系と2種類に分かれているんですけど、片方はハーブが命なので、ハーブを勉強していくと、リキュールづくりの勉強にもつながっていきます。私達が日常的に使っているお酒も、自分でアレンジして、ハーブリキュールを漬けることができるんです。その頃お店を開いたはいいけど、お客さんは来ませんでした。ハーブが何だか分からないから当然でした。
お店にいらしたお客様が「ハーブを下さい」って言うんです。「何を差し上げましょうか」って言うと、「ハーブ下さい」って言うから、「ハーブの何を差し上げましょう」ってやり取りになる。お客様が、買い方が分からないという時代だったんですよ、その頃。
それで、お教室を開いて、ハーブリキュールのセミナーを開きますから、いらしてくださいって、サンプルをつけておくと、「どこに蛇が入っているの?」って言う。20年前は、楽器でもないし、蛇でもないと知っていただくのが、とにかく大変でした。
香水もリキュールも、美味しい体に良い料理も、漢方とかもヨーロッパの薬草類も、ハーブやスパイスを勉強すると、色んなことが生活の中に取り入れられるんだよっていうのを、セミナーを開いて、お客様に知っていただかないと買い物できなかったのです。
ハーブって何なのかって、お客さんを教育して買う人を育てないといけないと考えたんです。それで、ハーブティの教室とか、ハーブのリキュールの教室を始めました。ハーブのお店を開店して2年目には、イギリスにアロマテラピーの勉強に行ったので、アロマのセミナーを開いたりしました。
他にも、塩・砂糖・油を減らすお料理の教室を開いたんです。
日本の中でもスパイスやハーブの役割をしているものがたくさんあります。生姜とかミョウガとかね。ヨーロッパの専門家は、山椒やみつば、みょうがのように、日本人が使っているような物を、オリエントハーブと呼んでいます。もう何年も前のこと、山椒を例に取りますと、葉っぱはハーブで、実はスパイスに分類されていました。でも、1つの木なのに、片方はハーブで片方はスパイスっていうのも変ですよね。
両方とも香りが良くて、健康増進に役立つという共通の定義があるので、今はアメリカやヨーロッパでは、「ハーブ&スパイス」というのが一つの単語になっています。私は、栄養学の世界からハーブやスパイスに興味を持ったので、体によくて美味しい洋風料理ができること、薬草としての働きがあるのだから、上手に使いこなしてほしいと広めたいと思っているところです。
現状としては、ハーブティが代表です。ただ、料理に使うという意味では、油を減らしても、塩や砂糖を減らしても美味しく食べる方法なのに、まだあしらいに使っているのが現状。パセリと一緒。なくてもいいけど、あった方がよさそうっていう位です。まず「砂糖」の代わりですが、ハーブって、香りが甘い。その香りが美味しく感じさせるのです。たとえば、シナモン。シナモンを効かせると、砂糖を減らしてもクッキーができるでしょ。そのシナモンの香りを引き立てるのは、クローブとかナツメグ。隠し味にちょっと使うんです。それが、ブレンド効果です。それから、「塩」の代わりなら、こんな使い方があります。お魚のムニエルやステーキを焼くとき、下ごしらえの塩こしょうは振らないで、お酒だけかけておきます。そして粒マスタードをぬる。そこにパン粉にハーブを混ぜたものを付けてグリルで焼きます。味は濃く感じるけれど、塩分はとても低い料理に仕上がります。
「油」を控える方法は、たとえばドレッシングを作るなら、ハーブビネガーを使って、油の使用量を少なくすればいい。そうすれば、カロリーは下がります。ハーブによっては、お醤油味に合うお酢のブレンドもできるので、お酢の中にハーブを漬け込んで、油の量の比率を下げます。
普通は、油が2に、お酢が1の割合ですが、それが逆転しても、お酢に風味がついていれば全然酸っぱくない。そうすれば、ドレッシングをかけても、カロリーは低いのです。
その辺は、やっぱり知識がないと難しいです。NHKで2年間かけてデータクリップを作ったんですけど、塩、砂糖、油を減らしてカロリーとコレステロールをコントロールできる献立を、数多く作ったんです。その時にも、色んな工夫をしました。
その工夫の一つに、カロリーの摂りすぎはよくないけれど「私は豚カツが好きだ」っていう人っているでしょ。「豚カツはカロリーが高いから、しゃぶしゃぶにしたら?」って言われたけど、「私は豚カツが食べたい!」って言う人には、豚カツを食べさせてあげなきゃいけないですよね。
そうした場合、どうやって考えるかっていうと、お肉って部位によってカロリーがすごく違うから、「あなたは今までロースカツを食べていたけど、ヒレカツにすれば」っていうところから始めます。でも、「ロースカツは箸で切れるけど、ヒレカツは固いわよね」って言う人がいらっしゃる。そうしたら、ヒレじゃなくて、脂のないもも肉をかたまりにしないで、薄切りを重ねるんですよ。そうすれば箸で切れるから。
肉を重ねていって、すごくヒットしたレシピに、「重ね牛肉のペッパーステーキ」っていうのがあったんです。すごい反響でした。
豚カツを作ったり、ステーキを作ったりする時に、赤身でも豚カツが食べたい、しかも箸で切れる柔らかいのが良いって言うなら、もも肉のスライスを重ねて一枚のお肉の形にすればいいわけですよね。それで豚カツにするだけでも、3割はカロリーが低くなるんですよ。同じ作り方をしてもカロリーが低くなる。まずお肉を選ぶ、そして肉のスタイルを選ぶ、厚切りか薄切りか。もっとカロリーを低くしたいとか、油の処理が面倒でいや、でも豚カツ食べたいっていう人いるでしょ。そしたら今度は、バターの方が香りが強いので、フライパンにバターを少し溶かしてパン粉だけをきつね色に炒めちゃうんです。
炒めたパン粉の中に、風味付けに粉チーズとかドライハーブ、ローズマリーとかタイムなど何でも好きなものを入れて香りパン粉を作るのです。
もも肉の重ねたものに、普通に小麦粉を振って溶き卵を通して、香りパン粉をまぶす。それを、オーブンで焼けば、カリカリの焼きカツが出来ちゃう。
食べても、違いはほとんど分かりませんよ。
何かを諦めない代わりに、頭を使わないといけませんね。
7. 生活の仕方をスローにして、食べる時間を大切に。
食べるってことは、生きる基本です。だから、自分の生き方をどういう風にしたいかという生活スタイルとの関わりが必要です。
つまり、食べることは生きる基本だから、効率よく仕事して、収入をたくさん上げてというタイプの物の考え方なら、お総菜を買ってきて効率よく足りない物はファイバードリンク飲んで、ビタミン剤飲めばいいわけですよね。
けれど、私は、自分の生活の質っていうのを、経済的なものだけで考えたくない。雑穀を炊くには、先に水に浸けておくという手間もあるから、日常生活を大切にするっていう価値観にシフト出来ないと、雑穀を取り入れる暮らしは無理です。雑穀を美味しく食べるには、ザーッとお水を入れて炊いても美味しくない。仕事をしてる人でも、仕事の合間に水に浸けて置いたりする手間とか、気働きとか、そういう風にシステマチックに頭を働かせていかないといけない。そこを大切にするか、しないかです。
目一杯働いて収入を上げて、高給レストランで食べてお総菜を買いに行くという生活が良いという人もいるだろうと思う。その反対がスローライフよね。どっちに豊かさを感じるかっていう価値観じゃないですかね。その価値観で、雑穀を食べるか食べないか決まると思います。
全員そっちの方に引っ張っていくのはとても無理があるんだけど、頑張って色々やってみたけれども、人間の幸せって何かなって考えたり、世の中の循環を考えたりした時にただ長時間働いて収入を得て、効率よく生活するっていうだけじゃない方がいいんじゃないかなっていう価値観に少しずつ変わってきてる人がいるから、そういう人は雑穀にも目を向けるんじゃないでしょうか。
健康になりたいという気持ちは一緒なんですが、どうやって健康になりたいかという時に、効率よく健康になりたい人と、生活全体の中から気配りをして健康になりたい人がいる。トレンド的にはスローな方に向いてる、そういう人を多くしたいと思っています。
先日、セカンドライフをテーマにした勉強会がありました。50代のご夫婦が対象の会でした。昔と違って家族が少なくなってるんですから、子供が出ていってしまって奥さんが病気になったらという危機感を持つ人が、男の人の中にもだんだん増えてきたのかなと思いました。
しかし、健康に暮らすには、技術がいりますよね。知識と技術がいります。1枚のお皿でも、和洋中に使いこなすとか、これからはそっちの考え方を大切にしていく。物ばかり増やさずに、っていう時代なのかな。 組み合わせ力が必要です。それには、ベースが必要ですね。基本力がないと、応用ができないんですよね。体が変わって、暮らしが変わるセカンドライフへの転換期に、基礎的な栄養学と暮らし方への心構えを学ぶ機会は、これから必要になっていくだろうと思いました。食べ物が溢れて世界中から集まっている時代です。だから、知識と意識が大切です。それによって、その人の食生活のレベルって変わってくるでしょう。 料理に頭を使う時間を、どうするかっていうのが問題になりますよね。
そうすると戻っていくのは、食べることは生きる基本なので、どういうところに価値観を置いて自分が生きていきたいかっていう、その考え方によって、食べることに割ける時間が多くなったり、少なくなったりしますよね。人のためにやろうと思うからいけない。自分のためにやればいいのよ。ついでに夫や子どももって思えばいいんじゃないでしょうか。私も、来る仕事を全部引き受けてしまうと、ご飯作る暇もないわ、何をする暇もないじゃないですか。そこをどうしようかなって、2~3年前から考え始めて、やっぱりご飯を作る時間がないほど仕事を引き受けるのは間違っているんだって達したんです。
ご飯を作る時間がないほど仕事をする方がおかしいんですよ。何のために生きてるんだか分からなくなってしまいますものね。
言葉についての追記
■五味・五色・五法
日本料理の定式は、五味五色五法を基本にして作られたものです。これらは、中国の古い陰陽五行説の理論から生まれたものです。
五味とは、人間の味の味覚は5つあるということを指すもので、甘辛酸塩苦の5つの味覚です。醤油、塩、砂糖、酢、辛(芥子、山葵、生姜)の調味料をさすこともあります。
五色とは、赤、青、黄、黒、白の色彩をいい、五法とは、生、煮る、焼く、揚げる、蒸すの調理法をいいます。これらを組み合わせて、美しいだけでなく、栄養のバランスがとれた、見た目にも美しい日本料理が作られます。(紋屋「宿屋の雑学」)
■和食と「五」という数字
五という数字は、和食の世界にとって切っても切れない関係があります。
「五法」「五味」「五色」「五適」「五覚」という5つが、和食に欠かすことができないものなのです。
まず「五法」とは、生(切る)、煮る、焼く、揚げる、蒸すという5つの方法のこと。
生は刺身、煮るは煮物、焼くは焼き物、揚げるは揚げ物、蒸すは蒸し物という5つの調理法のことで、会席料理にはこれらの5つのお料理が必ず並んでいます。
つぎに「五味」というのは、いうまでもなく味覚のことです。甘い、塩辛い、酸っぱい、苦い、辛いの5つに分類します。盛り付けに関係するのが「五色」。白、黒、黄、赤、青(緑)の5色で、白は清潔感、黒はひきしめ、黄と赤は食欲増進、青(緑)は安心感を表わす色として考えられています。黒塗りのお盆や朱塗りの椀などの器や添えられる葉や花などの演出もこれに通じるのではないでしょうか。
次に大切なのは「五適」。適温、適材、適量、適技、適心を表わします。適温は熱い料理は熱く、冷たい料理は冷たく適温で供すること、適材は食べる人にとって適当な素材であるかということです。適量は文字どおり、適当な量であるかどうかという意味。適技は技法に凝りすぎず、かといって無愛想でもいけないという意味です。適心とは、インテリアのことを指し、料理だけでなく、玄関から部屋までのもてなしの心を表わします。
最後に五覚とは、五感のことです。視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚という五感をフルに使っておいしい料理を味わうという意味です。(フンドーキン「知っておきたい和食の知識」)
■精進料理は、五味・五色・五法がきまり
精進料理は、とくに禅門でも食事としてかたちづくられ、生臭を離れ、身近の旬の野菜、山菜、木の実、海藻等を材料とし、五味、五色、五法のきまりのもとに調理されたもの。中でも、五色の青は春、赤は夏、白は秋、黒は冬、黄は四季の土用を意味し、1つの膳を宇宙に見たて、そこに天地を盛り込むとあります。
(精進料理・懐石料理北鎌倉/門前「精進料理」)