50カラット会議

37号   暮らしの匂い・心遊びの香り

2003年7月 発行所 「50カラット会議」

50カラット会議レポート 

37号

   暮らしの匂い・心遊びの香り

 

夏が来ました。花ござ、蚊取り線香、梅雨どきの湿った土の匂いや蒸れたような草木の匂い、夏姿に変えた人と行き違うと匂う樟脳の香り・・・。近頃は、そんな季節の匂いも縁遠くなっています。 懐かしい記憶には、どれも匂いがあるという私たちの年代ですが、密閉した家屋や過密気味の人口のせいか、暮らしの匂いは「消臭」が最優先テーマになっているのに気づきました。
空港に降り立つと、その国その土地の匂いがあって、家を訪ねるとその家の匂いがある。つまり、匂いは、そこの生活文化でした。それなのに、あれれ?どこも流行のラベンダーの香りだったりするのです。香水も葉巻も、遊び心が育てた遺産的匂いです。 衣に香を焚きこんで、動くたびに襟元や袖口から自分の匂いをこぼしていた文化もありました。
最近では、香りの健康効果も盛んに取りざたされています。あなたの匂い生活は、いかがでしょうか。

蛇の道はヘビに聞くシリーズ㊲

集まってくださったのは、香り研究家の嶋本静子さん、アロマセラピストの古川圭子さん体につける匂い上手でもあるアートディレクター塩沢圭子さん、オーデコロンは朝の気分次第とおっしゃるコピーライター(イラストレーター、エッセイストでもある)押田洋子さん、どちらかといえば換気での消臭がテーマと笑う建築家の尾関牧子さんの5人です。
いずれの方も、道は違えど匂いについては生涯の研究テーマと認めるだけあって、博識この上なく、お互いに耳そばだて合う会議でありました。

 

目次

1.外気と遮断された住居では、生活の匂いを消す傾向。「暮らしの匂い」が懐かしいこの頃です。
2. 匂いの文化を追うと、薬効と美意識が見えてきます。 気高い匂いを、「香り」といったのでしょうか。
3.匂いの効用、香りの健康効果。
4.いい匂いのする体になる。 暮らしがつくる匂い、心がけてつける匂い・・・
5. 気持ちいい匂い、嫌な匂い。匂いは消えたけれど、芳香剤が気になります。

 

 

1.外気と遮断された住居では、生活の匂いを消す傾向。「暮らしの匂い」が懐かしいこの頃です。

匂いは記憶を呼び覚まします。

子供の頃の記憶には、そこにいた人々や暮らしの場面につながる匂いがあります。現在の生活では、匂い=生活臭になり、消し去ってしまいたい匂いばかりが話題です。

●わが家の匂い
木彫師の父の仕事場は 木っ端の匂いでした。 たたみ、仏壇のお線香、 ごはんの仕度の匂い、古い本の 湿った匂い等家ごとに、その家の匂いがありました。

●季節の匂い
夏は蚊取り線香、衣替えの時期には樟脳の匂い、梅雨時は土や草の蒸れた匂いがあった。露地を曲がれば、木の花の香りが楽しめて匂いで季節がくぎれていました。

●住まいの匂い
エアコンの匂い、掃除機や乾燥機からの排気の匂い、室内に干した洗濯物の匂い。あちこちに置かれた芳香剤、殺虫殺菌や消臭目的のスプレー剤。期せずして匂い雑居中。

 

暮らしの匂いを取り戻したい。

密閉された家屋では、自然な空気の流れで換気されることは難しくなりました。 この7月施行される「シックハウス対策に係る改正建築基準法」は、換気設備の義務付けを謳っていますが、ことほど左様に、家の中には匂いがこもり易いということなのです。
たたみの部屋はフローリングになり、あっても季節ごとに畳表を変えるという家は少なくなりました。
蚊取り線香は電気器具になり、洋服ダンスの虫除けは、匂わないのが当たり前になった時代です。 匂いで季節の変化を感じる暮らしは、よほど拘らない限り、なくなりました。 ガーデニングでジャスミンの垣根をつくったら、ご近所から苦情が出たという話は参加者一同の気持ちを冷やしました。
一方、家の中には、トイレ、バスルーム、キッチンなどを中心に、香り商品が混在しています。その横に、流行の備長炭が積んであったりして。
暮らしの匂いの復権は、無理でしょうか。

  匂いも素材厳選主義の時代です。

□ 匂いの記憶は、遠いシーンを呼び覚まします。
木彫師のお父様に可愛がられて育った押田洋子さんは、父親の思い出にたくさんの匂いが漂っています。 「父がトントンと彫っていく時に出る木っ端くずの匂いは、木によって違うんです。その木っ端くずが溜まると、ドラム缶で燃やすのですが、これがまたいい匂いなの。それに植物の茎で、彫った木を磨くのですが、その時また、やっぱり匂いが出てくるの。そういうのが大好きでした。いい時代だったなぁと思います」。

□ 「シックハウス対策に係る改正建築基準法」
隙間のある家が少なくなって、建材や家具からでるホルムアルデヒドが問題になって、 隙間のない部屋には換気口をつけるべしという法律。
それだけ、匂いがこもる住居構造になったのです。 「閉め切っているから、匂いが心地よいという限度を超えてしまうのですね。匂いが苦手という人を増やしているのでしょう」と、古川圭子さん。 暮らしは、どんどん消臭の方向へいく傾向のようです。窓を開け放して、朝の空気を入れる、季節の風を楽しむのは、贅沢になりました。

□ エクステリアも匂いトラブルの元。お気をつけて!
ガーデニングで、ジャスミンの生垣をつくったところ、「臭い!」という苦情があったという話がありました。香り研究家の嶋本静子さんによれば、ジャスミンの種類に原因がありそうとのことです。
「最近流行の羽衣ジャスミンは、安くて育て易いということで人気なのですが、これは一時期だけいい匂いなのですが、あとは、臭い。インドールっていって、糞尿臭なんです。あのジャスミンの芳香はないのですね。本物のプロイジャスミンっていう南仏産のものは、いい匂いです」。
それに、流行の枕木も、臭いという物議の原因になることがあります。
カナダから取り寄せて敷き詰めたものの、その匂いの凄さに、窓も開けられない始末。ご近所からも苦情がきたというのです。 建築家の尾関牧子さんによれば、「今は、ガーデニング用に作っているから、古材と違って匂いが抜けていないのでしょうね」だそうです。ナチュラルに暮らすのも、大変な時代になりました。

□ 季節の匂いを、素材主義で取り入れたい。
冬は、薪や炭の匂い。夏は、花ござの井草の匂い、蚊取り線香、草木と土の匂い。季節の変わり目の樟脳の匂い。どれも遠くなっていきます。
けれど、せめて花の香りは空気清浄スプレーでなく、季節の草花を楽しみたいものです。もっとも、花も匂わなく改良されて、あれっ?ということも多くなりました。りんごの季節に、ロビーにりんごを山積みしている会社がありましたが、玄関にレモンや柑橘類を置くのもいいし、小さくても本物の井草マットを使うと、夏の匂いが漂うのではないでしょうか。

 

 

2. 匂いの文化を追うと、薬効と美意識が見えてきます。気高い匂いを、「香り」といったのでしょうか。

匂いの文化

●香りを焚いて、殺菌殺虫し、香りを撒く生活があります                                                     インドでは、「香り屋」という、香炉を焚きながら屋敷内を回っていく職業がある。

●僧院のハーブ畑は防虫用と薬用でした
16世紀占星術のノストラダムスは、疫病が流行ったときに、医師として、お城のハーブを患者の家に届けたという逸話もある

●衣服に焚きこんで、動くと香り立つ優雅を楽しむ文化がある                                                        源氏物語でも、暗闇で自分を知らせる手段は匂いだった。香水も、通り過ぎてほのかに感じるのが雅。

●体臭を芳しくしたい願望の歴史は長い。
中国の香妃、楊貴妃には、香伝説もある香妃の遺体を担いだ人は、亡骸も、いい香りだったと述懐。棗の香りだったとか

➡同じお線香でも、東南アジアの強い焚き込み香を日本で使うと、ちょっと刺激的すぎるよう。香りは、空気の流れやその場の雰囲気に溶け込んで初めて、人の心に届くのかも・・・

 体の匂い、体にまとう匂い

湿度が高い日本では、香水の使い方も難しい。 香りはつける人の嗜好と気持ちの表現というけれど、場面や相手にあわせる見識が必要だと、皆さん口を揃えます。気高く使いこなせるには、自分の体の匂いに精通しなくてはと言います。楊貴妃は、体臭の強かった人だそうですが、体の匂いを逆手にとって、組み合わせると芳しい仕上がりになる香りを身にまとったと言われています。そこまでいかなくても、体調体温に合せた香りの選び方は必要です。
体力任せで元気なころには、自分の気持ちを奮い立たせるような香りを使っていたという人も、最近では、淡くて柔らかな香りを選ぶようになったとか。
ライフスタイルが変われば、香りも変わるということでしょうか。風通しの悪い部屋や電車の中では、匂いの強いガムを噛んでいる人も鬱陶しいのですから、そんな場所へ出向くときは、ノンパフューム。体に直接つけるのは抵抗がある人は、衣服に香りを移しておくのはいかがでしょう。柑橘類の皮やヒノキの木っ端をクロゼットの隅に置くだけで、爽やかな香りをまとえるという寸法です。

匂いは生活文化です

□ シャンパン、ワインを葉巻と楽しむ。
押田洋子さんは、シャンパンの都・ランスで、食前、食中、食後酒にシャンパンが用意されたディナーでのことを話してくださいました。
食後のシャンパンとコーディネートされて、葉巻が出てきたのだそうです。「シャンパンから始まって、シャンパンで終わる素晴らしい晩餐だったの。そんな時、食後のシャンパンと一緒に、女の人も葉巻を楽しむのです。重い食事、おいしい食事をした時には、葉巻を吸います。吸ってもいい環境になって いるってことですけれど」。  嶋本静子さんからも、「鎌倉にも、ワインバーですが、お客様に葉巻が出される所があります。おつまみみたいに、葉巻が出てくる。そこに行くと、面白いからウィスキー飲んだり、ワイン飲んで葉巻を吸ったりして、独特の雰囲気と味を楽しみます」と、葉巻との出会いを伺いました。なんだか、これこそ今だからできる大人の楽しみのようにうっとりします。

□ 宗教の国々の匂い。
中国でチベットの寺院を訪ねて、ヤクの蝋燭の匂いに厳粛な想いになったという人やインドやパキスタン、イスラムの国々での祈りの声と共に思い出すお香の匂いなど、宗教の国々の旅の思い出は、匂いと一体のようです。その場では、自然に感じられた匂いなのに、日本に持ち帰ってみると強すぎて、やはり、気候風土の違いを思い知ります。

□ 電車の匂いは、路線で違います。
田園都市線と東武線と営団地下鉄の3本を選べる駅近くに住む人からは、「路線ごとに匂いが違います」という発言がありました。
「車内広告の様子も違うし、生活が微妙に違うのでしょうね」と、一同頷きます。外国旅行から帰ると、かばんにその国の匂いがついてきます。
飛行機もそう。外国の航空会社の飛行機には、その国の匂いがついています。私たちの年代は、初めはおやっ?と思っても順応するし、それも旅かなと受け入れるけれど、匂いに弱くなっている若い世代は、それも難しくなっているそうです。

□ マクベスのお城で出会った「香りの柄杓」
嶋本さんは、イギリスを旅した時、香りの柄杓を買ってきました。 「石造りのお城の中で、その穴の開いた柄杓の中にハーブとかスパイスとか木屑とかを入れて、くすぶらせながら、歩くんです。それは、安眠効果だったり、伝染病予防の殺菌だったりしたのだと思います。映画の中で、いじめられて死んだ女の子が、幽霊になってお城の中をウロウロするシーンがあって、その子が香りの柄杓を持っていたのよ。その女の子の仕事だったのね」と、怖いお話付きでした。この柄杓は、インドなどでもあって、「香り屋」と呼ばれる職業の人が、家々をまわって振り回しながら、防虫や殺菌消毒をするとのことです。

3.匂いの効用、香りの健康効果。

匂いの効果

●菖蒲湯、柚子湯は、安らぎの香りと薬効の湯
菖蒲湯は、鎮痛、血行促進、腰痛神経痛に効果。抗菌作用も。柚子湯は、疲労回復、新陳代謝を活発にする。柚子は温熱効果の生薬。

●香りは皮膚からも吸収する。アロマテラピーのマッサージ効果は大きい。
香りには、アレルギー源になるものもあるからご注意アロマテラピーでユーカリはインフルエンザに効果、鼻づまりにはラバンサラ。

●職場では、疲れが出る3時頃に、レモンの香りを流して、リフレッシュ効果
建設会社での試みは、好評らしい。お料理の途中でレモンを手首につけるだけで気分爽快になる。

➡自然の香りなら、体にも心にもムリなく受け止められます。疲労回復、更年期の気力減退、不眠にも香り療法を取り入れてみたい。

うちわに一滴のエッセンスオイル

インドの「香り屋さん」よろしく、一振りすれば広がる効果という方法には、 「それ、簡単そう!」と、一同喜びました。
香りのロウソクを使うのは、火の元が心配だしと迷っていた人は、大いに乗り気。大好きな香りを一滴、ティッシュにたらして、寝る前にベッドのまわりで振ればいいのです。睡眠を誘うのは、自分の一番好きな香りが一番ですが、アロマセラピストの古川圭子さんによれば、「ラバンサラ」が効果的だそうです。  これは、マダガスカルにしか育たない木の葉っぱです。 何しろ、これまで眠れない上に、夜中に何度も目覚めてしまう悩みを抱えていたジャーナリストの吉田いち子さんが、「久々に、ぐっすり眠れた!」と感激した香りです。
それにしましても、香りの扱い方は、その按配が難しいのです。 間違えば、臭いということにもなりかねないし、匂いが気になって却って気持ちを不安定にしてしまうこともあります。目的別に適量を染み込ませた香り紙をパックしてあって、都度取り出してひらひらすればいい商品というのは、あれば便利そうです。

体と気持ちと美容に効く匂いそれぞれ。

□ ハーブは、抗生物質ができる以前のお助け草。
占星術のノストラダムスも、ハーブで人助けをしていたというのは、嶋本静子さんです。
「ノストラダムスといえば、天文学者兼医者兼薬師。要するに毒薬づくりだった人。けれど、パリの街に疫病が流行ると、タイム、ローズマリー、セージなどのハーブを抱えて辻々を走り回って、貧乏な人の家に行ったそうです。ただおどろおどろしいだけの人じゃなくて、偉いんだって思いました」。 僧院がハーブ畑を持っていたというのは、疫病の流行対策でもあったのでした。
それに、「白檀は、性病の菌を殺せたんです。今80歳、90歳のお医者様は、白檀の匂いをかぐと、性病患者を思い出すっておっしゃいますね」とも。植物は、自分を守るために匂いを持っているのだけれど、それが人間の役に立っているというわけです。

□ ハーブの中には、インフルエンザに効くものもあります。
ハーブは、鼻から吸ったり、皮膚から吸収して、リンパで運ばれて血液の中に入っていくということで、体の中の菌を殺したり、体を健やかにしたりするといいます。アートディレクターの塩沢圭子さんは、ティトリーを愛用しています。オーストラリアの原住民アボリジニたちに昔から使われてきたハーブ。
「オーストラリアでは、マウスウォッシュにも使われていて、歯科医の精油ともいわれているのだけれど、心のリフレッシュだけでなく、免疫機能を強くするので、インフルエンザにも効くといわれている、万能的なハーブです」。
「インフルエンザになら、ユーカリやラバンサラがいいですよ」と、アロマセラピストの古川圭子さんも教えてくださいました。それこそ、エッセンシャルオイルをティシューに1滴落として、それを周囲に振り回すだけでいいのです。鼻の通りもよくなって、眠るのが一番という体には大助かりです。
□ 匂いは、風が運んでくれる。
建築家の尾関牧子さんは、「入ってくる空気があって、出て行くところがあるように、空気の流れをつくることが大切です。匂いのもとは、流れに乗るように置くといいのです。 たとえば、エアコンのフィルターに、エッセンシャルオイルを一滴というのも効果的」とおっしゃいます。但し、フィルターは汚れ易いので、洗ったときにどうぞ。

□ フルーツ効果。
3時になると、送風口からレモンの匂いが流れてくる会社があるそうです。キッチンに立って、疲れたなぁと感じたら、レモンの汁を手首にこすりつけると、不思議に安らいで、体もラクに動きますという人も。「香りだけでなく、成分的にも疲労回復効果があります。オレンジ系はいいですよ」。 匂いで、脳みそまでコントロールするなんて、凄いですね。 コピーライターの押田洋子さんは、「私はキューリ。あの匂いが好き。例えばスポーツクラブでの韓国マッサージでは、キューリ使うんです。要するにキューリパック。食べる時も、パキッて折って匂いを嗅いでから食べる。どんな効果があるのかしら。
気持ちいいから、きっといいのね」と、好きな匂いで安らぐ効果をお話くださいました。

4.いい匂いのする体になる。 暮らしがつくる匂い、心がけてつける匂い・・・

身につける匂い

● 暮らしがつくる匂いがあります。
職業がつくる匂いがある。アロマテラピーを仕事にする人は、自分には香りをつけないのに、いい匂い。食べ物習慣はその国の人の匂いもつくります。

●心がけて身に付く匂いがあります。
昔遊女は股火鉢で体と着物に匂いを焚きこんだし、中国では宮廷に上る前の娘に丸薬飲ませて、いい匂いの体に仕立てたとか。今は、髪やボディケア用品
が匂いを選び汗を抑える。

●体につけて、いい匂いにすることがあります。
嫌な匂いをごまかすために香りをつけることがあります。酒気帯び時のガム、匂いが強いものを食べたあとの口腔清浄剤も。香水使いの名人は体臭も味方にしてしまうそうです。

➡コロンや香水の使い手になるのも、なかなか 楽しそうです。 それでなくても、体の汗が芳しい体になる! なんて、心浮き立ちませんか?

香り上手になりませんか?

日本では、香水使いの名人が育ちにくいとはいうものの、いい匂いの人になるのは、目指す甲斐がありそうです。
湿気は強いし、人は過密的だしというわけで、コロンも香水も使いにくい環境ですが、無臭人間になるというのも、何か味気ないではありませんか。
アロマセラピストは、香りを使って仕事をするので、お客様の嫌いな匂いをつけるわけにいかないこともあって、ご自分は香りをつけないのだそうです。なのに、何だかいい匂いが漂います。
とすれば、私たちも、暮らしの中に大好きな香りを漂わせておけば、自然にその香りが体につくでしょうか。クロゼットの隅に、好きな匂いの石鹸や香水のビンをしのばせて置くとか、檜の木を立てかける、ポプリの匂い袋を下げるという方もありますが、自分の匂いづくりなら、かなり徹底した匂い管理が必要なことでしょう。介護中の親の身辺に、檜や杉のオイルを一滴落とす方もいらっしゃいます。たとえ粗相があってもカバーしてくれて、本人にも、気持ち安らぐマイパフュームと、気に入ってもらえているそうです。

通り過ぎたとき、ふっといい匂いの人になる。

□ 香り大好き!
押田洋子さんは、朝オーデコロンをつけると、「さぁ、今日も行こう!って気持ちになるし、爽やかになります」と、何種類かのオーデコロンを使い分けていらっしゃいます。 「でも、夜は誰かとお食事ということも多いし、控えます」とのこと。 一方、塩沢圭子さんは、20代から自分の香り探しをして、香水には随分投資してきました。「20代の初めの頃、まだ日本には輸入品も少なかったですね。外国のお土産にいただくという時代でした。そのころ、銀座の数寄屋橋のショッピングセンターに、色々な種類を量り売りしていたお店がありした。好きな香りに出合うまで、随分投資しました。
あんまり女っぽくなくて、清潔感がある、甘くない香りを求めていました。香水の使い方には、気を遣いますね。特に香りは移りますから、相手が男性だったりするときは、つけて行かない方がいい。エチケットでしょうか」。
嶋本静子さんも、「お食事でも、特にワインを楽しむときは、香水はだめ」と、つい自分のおしゃれに夢中にならないようにと、注意信号を出してくださいました。

□ 白檀のお扇子。
白檀は、そもそも天然の素材がどんどん減っているので、安いお土産品は、にせものということが多いそうです。 「他の木で作って、白檀の香りを付けているんですね。それは、少し大袈裟な匂いがありますよね。本物は、いい匂いですね、私は、小さい頃、長唄を習っていて、そのお師匠さんは、夏になると白檀の扇子を使うんです。それは優雅な香りで、子供心にもいいものだと思いましたよ」というのは、押田洋子さんです。
昔のもので、もう匂わないというお扇子を持っているという人には、嶋本さんから、「釘か何かで、ガシガシ擦ると、匂いが出てきます。本物ならね」と、アドバイス。

□ 麝香(じゃこう)の話。
もともとは、麝香鹿からとる香料・ムスクです。 日本でも、男性の香水として、この香りが売り出されたことがありました。動物的な本能に訴えるという計算の商品でしたが、あまり売れなかったそうです。
塩沢さんの飼っていたシャム猫は、季節になると、すごくいいにおいを発散していて、その香りでメス猫を引き寄せていたそうです。「麝香猫の血が入っていたのじゃない?」ということでしたが、とてもいい匂いだったそうです。サンショウウオもそう。発情期には、山椒の匂いを出すそうです。

□ 秘境の天女の話。
中国の伝説ですが、山奥の秘境で捕らえられた天女が、それはそれは美女で芳しいというわけで、宮廷に連れて行かれたそう。その天女は、森の奥で葉の露と松の実だけを食べていたのに、都に来て、お酒は飲む、肉は食べるという生活をしたら、たちまち老女のようになってしまったというのです。
食べ物が体の匂いをつくるというのは、そうかも・・と思いませんか?

 

5. 気持ちいい匂い、嫌な匂い。 匂いは消えたけれど、近頃、芳香剤が気になります。

匂いを取り戻したい

●柔らかい匂いが好き
若いときには、強い香りも好きだったけれど、最近はほんのりが好き。特にお線香は、人工的な香りに閉口。高くても本物を使いたいと思う。家族の
記憶に残る匂いだから。

●自然の匂いを除くとか弱くする傾向に戸惑う
花や野菜の匂いがしないのは、品種改良の成果と聞くと複雑な気持ち。家屋に換気が義務付けられて、いよいよ無臭化?

●無臭化には反対!
匂いがないって危険ではないでしょうか。 昔の家屋では、トイレの脇に金木犀の木。トイレの掃除は、時々の除菌消臭スプレーでなく、毎日の水拭きでした。

➡暮らしに素材の匂いを取り戻したい! 自然の匂いの代表は、樹木の匂い。空気の流れに乗ってくる季節の匂いで暮らす幸せを取り戻したい。

 

 芳香剤は、何故こんなに増えたのでしょうか?

「マンション生活では、古い本の匂い、部屋に充満するタバコの煙の解決策は消臭剤なんです・・・・」とつぶやくのは、コピーライターの押田洋子さんです。窓を開け放って暮らすことが難しい都会のマンションでは、換気は大問題です。
確かに、空気清浄と消臭を謳っている商品は増え続けています。場所別、家具やファブリック、衣類に至るまで、付いた匂いを消してくれるというので、家の中でペットを飼う人たちには、欠かせない商品でもあるのだとか。その香りもさまざま。これが商品の差別化というものか・・・と鼻を押さえつつ首を
傾げるという具合です。
高級感が、香りの素材ではなく容器だったりすると、これまたびっくり。デザインにしても、季節の花を一輪飾ったほうが、気持ちにしっくりくるようです。毎日水拭きの掃除を復活したら、芳香剤不要になったという話もありますが・・・

 匂いの好き嫌いは、主観的なことも多い

□ タバコの匂い、いかがですか?
肩身が狭くなったタバコですが、その匂いの好き嫌いは、かなり主観に左右されます。たとえば、「タバコを吸う人が好きだったら、タバコの匂いも香りだったりして!」とか。 相手の方との関係にもよるというのです。

□ 芳香剤、いかがですか?
「車に乗っても芳香剤、トイレに入れば芳香剤。その匂いに気持ち悪くなることがあります。なんで、こんな匂いにしなくちゃならないの?って腹立たしいくらい、香りが下品なのよ」と、閉口する人は多いようです。もっとナチュラルないい匂いがたくさんあるのに、どうしてこれなんだろう?という疑問 です。 部屋の匂いを消すための消臭芳香剤は、匂いに勝つ匂いなのでしょうか。 けれど、同じ匂い商品でも、樹木の匂いをテーマにしたものは好評です。
昔、ご不浄の脇に金木犀がありましたが、どのくらいの効果があったかはともかく、そのおおらかさには、感動があります。

□ エッセンシャルオイル、いかがですか?
「母親の介護をしていた時に、檜のエッセンシャルオイルは、粗相のあとに効果抜群でした」とおっしゃる方がありました。フルーツの香りとか、いろいろな消臭剤を試したけれどだめで、檜のエッセンシャルオイルに出合ったときは、これだ!と喜んだそうです。 木の香りは、日本の湿度や家屋にしっくり馴染むのは確かなようですし、好き嫌いも比較的少ないといいます。
ペットとの生活にも、木の香りはいいそうです。 エッセンシャルオイルは、ティシューに1~2滴落として、それを振り回すのが便利でしかも効果的です。

□ 炭は、いかがですか?
「備長炭を置いています。インテリアにもなるし、かごに盛って玄関に置いてある」と押田さん。竹炭も、民芸コーナーなどで売られていますが、皆さん、そんな風にお使いなのでしょうか。私たちがやっているTRYダイニングクラブというサロンでも、使っている竹の割り箸がダンボールに溜まった時、竹炭に焼いてもらったことがあります。形のままで炭になった割り箸は、姿もかわいくて、喜んでいただきました。
聞くところによれば、玄関の靴箱の隅に納めて、匂い取りにしているとか、洗面所でインテリア兼消臭を期待しているとか。
炭にあいている無数の穴が匂いを吸い取るのだと聞きますが、炭は私たちの心のどこかにある日本人の原風景のようで、何より気持ちが安らぎます。
匂いなら、パチパチと音を立てて燃える薪や炉で真っ赤になった炭の匂いにまさるものはないと思われます。
気温が上るこんな時期に、火の話なんて!失礼しました。

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