50カラット会議

42号  ずっと映画に夢中です。

2004年1月 発行所 「50カラット会議」

50カラット会議レポート 

42号

ずっと映画に夢中です。

思い切り泣く、思わす吹きだす、凛とした女に惚れ惚れする

最近は、家でビデオを観ることも増えたけれど、やっぱり映画は、映画館。
「あの暗闇に座る気持が、いいのよねえ」という、映画育ちの年代です。 初めて親に連れられて観た映画は、題名も心躍らせたシーンも、いまでもクッキリ脳裏に焼きついています。映画館を出る時、いつも主人公になりきっていた子供の頃を懐かしみます。そして、デザイナーは、タイトルがデザイン化されたときの衝撃を思い出し、ファッションショーのプランナーは、『8人の女たち』のスタイリストの仕事に 感動して、「あの仕事、やりたかった!」と叫ぴました。映画は、読書にも似て、夢中にふけった経験を、みんな持っていました。「あの時期って、人生の宝だわね」とまで言わせています。
疲れて安静を言い渡されたときに、懐かしい映画三昧をした人もいます。思わず吹きだして心安らいだのは、東宝喜劇の「社長シリーズ」「駅前シリーズ」だったとか。 さぁ、始まり、始まり!

蛇の道はヘビに聞くシリーズ㊷

映画は、そのときの自分を丸呑みする。 だから、映画館を出てくる私は栄養たっぷり。

女性監督の映画に夢中の小野由理さん、『8人の女たち』の衣装のすばらしさに、スタイリストをやりたかったという佐藤千恵子さん、『Jackie Brown』のパム・グリアがずっと好きな塩沢圭子さん、仕事とはいえ1年に300本ずつ3年観ましたと笑う矢崎潤子さん、そして、「家でビデオを観るときも、一心不乱」な若林みどりさんの5人にお集まりいただきました。映画の作品への共感は、そのときにどんな状態にあったのか、どんな仕事に襲わっていたかでも異なります。同じ作品でも観る度に違う感動に出会うだけに、お話は3時間にも及びました。「映画が人生と女を磨いたのね」が、感想です。

 

目次

1. 映画は至福の時間です。
2. 洋画は夢、文学作品は人生の喜怒哀楽を見せてくれた。なりたい女性像も、映画から吸収してきた・・・
3. 感情的に共感するのは、心地よい。
自分と無関係の世界を、驚きつつ眺めるのも大好き。
4. 見だい映画/見たくない映画
5. 小野由理さんがお勧めする、女性像映画です。

 

 

1.映画は至福の時間です。

ビデオ全盛といえども、やっぱり映画は映画館。

第一、集中力が違います。それが証拠に、映画館で観た映画の印象は、良かれ悪しかれ、いつまでもくつきり。ビデオは、通り一遍の印象に終わりがちです。 とりあえず観ておこうかなの時間潰しだからでしょうか。

●話題作は逃しません。
映画は、ファッション雑誌に似たところがある。新しい発見、好きな人やスタイルとの出会い、眺めるだけで夢を見られます。仕事柄、見ておきたい映画は、最優先します。

●泣きに行きます。笑いに行きます。                                                        落ち込んだり、心が弱った時は、映画が効きます。 思い切り泣く、体をよじって笑うと、スッキリ即効回復。暗闇に座る時間も、気持を安らがせてくれて・・・。

●家で静養気分のときは 古き良き映画とご対面。                                                               風邪ひいたり、ゆっくり週末を過ごしたい時、CATV、BSで映画三昧。懐かしい映画でぽんやりします。家で観る映画は娯楽優先。

 

アートシアターギルド系でヌーベルバーグに酔い、サラリーマンものの喜劇に笑い、映画好きになりました。

「映画館に入るまでは、この世の地獄を味わっている風だったのに、出てくると人が変わったみたいに、睛れ睛れ。映画の力でしたね」とは、若林みどりさんの回顧です。中学生になって、映画の雑誌からアメリカ文化を感じて、映画にのめりこんだ人も多いようです。
「いいと言われる映画は必ず観る。アレが好き、コレが好きというのでなく、片っ端から観ちゃう。そんな感じでした。30代になって、仕事が忙しくなって、映画館に行けなくなってからは、もっばらビデオになりました」と、佐藤千恵子さん。コンピュータ・グラフィックの手法を駆使した映画は、やっぱり大画面の映画館だけれど、TV画面もプラズマの大きめサイズだと、かなりの迫力が楽しめるそう。「ホームシアター」に憧れてしまいました。
なにしろ、本と映画と音楽のウイルスにかからないと大人になれなかったはずと振り返る50代。映画大好きは、留まることがありません。

映画に、ひとり心地する楽しみ。

口思わす吹きだす可笑しみ、大好き。                                                                   「なんたって、日本のサラリーマン喜劇は、可笑しかったわねぇ。今でも、テレビ番組で見つけると観ちゃいます」
「うん、あれはバカバカしいのに、なんとも可笑しいのよね。最近の、ただバカなことをやってみせるっていうのじゃないからね。思わず吹きだしちゃう笑いなのね」「駅前シリーズ、社長シリーズ、最商!森繁さんや三木のり平、面白かった!」映画が娯楽の最高峰だった時代には、人間がいとおしくなるような喜劇が楽しめたとー同振り返りました。

口時代劇、チャンバラは、いつ観ても飽きない。                                                               「体調を崩して、とにかく家でじっとしていらっしゃいと言われた時、CATVで、時代劇を一日中観ていました」とおっしゃるのは、塩沢圭子さんです。
「昔の映画は、お金と手間暇がキチンとかけてあるし、丁寧に撮っているなぁって感心しました。それに、昔の俳優さんの着物姿って、これがまた美しい。阪東妻三郎や中村錦之介なんか、着物で見直しちゃいますね」と、さすがデザイナーの視点です。着物といえば、「極妻シリーズの姐さんの着物姿も、独特。『細雪』なんかの良家の女性の着物とは違う美しさ、凄さがあるでしょ。あれ、好きです」と、につこり。
ー同、「塩沢さん、アレ似合うかも!」と、ザワザワ致しました。

口家でピデオの時も、一心不乱                                                                   「映画館での集中まではいかなくても、ビデオを観る、テレビで映画を観るときは、それなりに集中できる態勢を整えます。電話なんかかかってくると、電話を優先しちゃうからやっぱり真夜中かな」と矢崎潤子さん。翌日の時間を気にせず、明け方まで映画という時間は、まさに至福の時。
ホームシアター風に大画面のプラズマテレピを備えた若林みどりさんは、「観ると決めたら、お気に入りの椅子にオットマンも用意して、足を上げて一心不乱状態」です。 テレビ画面で頻繁に映画を観るようになってから気づいたのは、映画の内容によってやっぱり映画館と大画面に拘りたいものと、テレビサイズで十分というものがあるということ。
最近のコンピュータ・グラフィック映画は、映画館。それに引き換え、昔の日本映画はテレビ画面でちょうどいいと言われますが、画面構成、動きの速度や音などの具合でしょうか。

□ドリンク付きゆったりジートのシネマコンプレックス、体験済みですか?                                                  近頃、映画館も「マイカウチ」状態、終わってから余韻を楽しむカフェスペースもあるという映画館が出来ています。いらっしゃいましたか?
矢崎さんは、「私は、映画自体を楽しみたいのと、あの暗闇に座る楽しみで行くから、ゴージャスでなくていい。この頃は暗闇がないから、映画館は暗闇空間として大事なの。映画が面白くなければ、目をつぶっていればいいし」。ちょっと疲れた時、暗い映画館に座りに行くって、身に覚えがあります。

 2.洋画は夢、文学作品は人生の喜怒哀楽を見せてくれた。なりたい女性像も、映画から吸収してきた

美男美女に憧れ、自分の人生を自分で切り拓く女性に感動してきました。

「強い=カッコイイ」女性像に、近づこうとしてきた。 ファッションも、憧れる女優から学んできた。

●子供時代は、学校でも映画教室全盛期
家族でのお出かけは、ディズニー映画を観て、パフェ食べて帰る習慣。ゴジラ、東映時代劇にも夢中だった。

●育春時代は、ATG。集中的にはまりました
本を読みふけった時期、映画にもはまっていた。日本のヌーベルバーグ、ヨーロッパの文学大作は片っ端から観てきました。

●3、40代は仕事の視点で選んできました
映画からは、美しいとはどういうことかを学んだ。仕事で1年に300本を3年間続けたとき、映画は人間を変えると確信しました

映画での感動は、すぐ実践。ファッション、歩き方、仕事のキーワードetc.

そういえば、昔のスターたちは、私生活なんて見えなかったし、見ようともしない存在でした。
けれど、この頃、女優さんたちを評価するとき、人間的に面白そうかどうかという視点が加わっているのに気づきます。
「最近は、カリスマ的な女優さんがいなくなったからね。映画界も、そんな風に育てていないのだと思う」という意見もありましたが、演じる役への評価だけではなく、人間的な共感を求めるようになったのでしょうか。テレビ時代になり、銀幕のスターもお茶の間番組に顔を並べるようになったのですから、自然の成り行きでしょうか。とはいえ、50代には、「自分のキレイイメージはこの人がお手本」という女優さんがいます。
佐藤千恵子さんは、ローレン・バコール。コートの羽織り方、座り方は、彼女をお手本にしています。
塩沢圭子さんは、パム・グリア。その凛々しさがずっと大好きで、ファッションも彼女から学びました。

映画は、文化そのものです。

□明るくて、楽しくて、アメリカ文化に憧れました。
「映画を大好きだった母が、憧れていた美しい洋画に連れて行ってくれました」という方は、多いようです。
塩沢さんは、「『赤い靴』『若草物語』『白雪姫』を観て、ドレスにつけるプローチの位置なんかに新鮮な発見をしていました。フレッドアスティアやジンジャーロジャースの軽やかなダンスも忘れられません」と、その時の刺激を思い出します。

□始まりに、映画会社名を唱和する映画鑑賞の儀式
福島の田舎で子供時代を過ごした矢崎さんは、小さな映画館での儀式のような習慣を、懐かしそうに話してくださいました。
「始まって、映画会社のプロローグの絵が出てくると、みんな一斉に、『とうえ~い!』とか『しょうちく~』とか叫ぶの。ご唱和するっていうのかな。観客の礼儀なんです。それが東京に出てみたら、誰も言わない!アレレッでした。カルチャーショックね」。

□ 青春時代は、日活とアートシアターギルド(ATG)全盛でした。
高校時代は、『青い山脈』『伊豆の踊り子』で、吉永小百合、浜田光夫、高橋英樹といった人たちに共感する一方、日本のヌーベルバーグといわれた監督たちの作品を追っていた年代です。『日本の夜と霧』『心中天の網島』に感激して、今なお細部のプロットまで覚えている人もいます。

□この頃の共感
「最近の女優さんには、奔放さとか、何かしでかしそうという危うさがある人が見つかりませんね。カリスマ性なら、樹木希林。人間そのものが面白そうだし、それでいて、 私生活が見えない。あんなにコマーシャルに出ているのにね」「山田邦子ちゃんが、女寅さんを演ったら面白そう!」
「この頃、女性の行き方がテーマの映画も多いですよね。ああなりたいっていう姿勢を見つけると嬉しいですね。古いところでは『風と共に去りぬ』のスカーレットオハラ。最後のシーンに感動したけれど、ああいう強さに惹かれます」「『エイリアン』の時のシガニー・ウィーバー、『ローズ家の戦争』のキャサリン・ターナー。あの大きなシャンデリアが天井から落ちてくるシーン、凄かったわ!『ジャッキー・プラウン』のパム・グリア、カッコいい女優だわ」
強い女、人生を自分で拓いていく女性に、一同強い共感がありました。

□男性監督の方が、女性をカッコよく美しく撮ると思う。
女性監督が目立ってきたとはいうものの、同性のせいか、オブラートに包まないし、あけすけになるキライがあるのではという意見がありました。
女性映画に詳しい小野由理さんは、「ですから、裏側まで描き過ぎちゃってということも出てくるけれど、それはそれで女性の現在を表現しているということで、共感が得られているのだと思う。強さも、男性から見た女性の強さと、女性自身が感じる強さとで違うのじゃないかな」ということでした。

3.感情的に共感するのは、 心地よい。自分と無関係の世界を、 驚きつつ眺めるのも大好き。

美しいもの発見は、映画の喜び。

映画の最後に出てくるキャストに、思わず嫉妬するステキな映画に出会うことがある。この映画のスタイリストをやりたかった!
このタイトル・デザインやってみたかった・・なんて。

●心が温まる、心に油みる映画が好き。                                                                日本の原風景、日本人の原点的暮らしや気持に安らぐことは多い。「寅さんシリーズ」や時代劇、サラリーマン喜劇から「沙羅双樹」まで

●ヨーロッパ映画は、大人の心の機微にドキッ!                                                               やっぱりフランス映画。「いい映画」は、観た時点での自分次第のところがある。感情移入して観た映画には印象が強い。

●別世界を覗く映画は、まさか!とはまり込む。                                                                 発想が楽しいSF映画、新技術が楽しみなCG映画、ルールが違う極道もの、自然探検や科学映画も新鮮に驚く。

 

「視聴覚教育」とは、よく言ったと思う。映画は、人生を磨いてくれました。

美しい風景、美しい男女、美しい会話・・・
未知な世界への誘いとして、こんなにも廿美な方法があるだろうかと、映画への賛歌を捧げたい気持です。
映画にはまった時期は、読書に夢中になった時期と重なりますが、何といっても視覚と聴覚を刺激される強烈さは、ショックが違いました。
映画は、物語や俳優たちへの共感の他、門外漢にも、音楽や映像デザインヘの目を開いてくれる面白さが、おまけに付いておりました。             好きな俳優が出来ると、彼が出てきた映画は、チケットからパンフレットまで大切に何度でも眺めたものです。イギリスの上流階級をテーマにした映画を繰り返し観ては、英語の発音を真似てみたのも昨日のよう。ファッションはもちろん、インテリアやデートの仕方・働き方まで、映画には生き方のヒントが詰まっていました。『八月の鯨』『ムッソリーニとお茶を』などの楽しい老人たちは、これからの30年をワクワク期待させてくれました。あんなおばあさんになりたいな。

映画からの衝撃。

口映画って、こんな風につくれるのか!
80年代の映画は、子育て中でほとんど観られなかったという小野さんは、岩波映画の2本の作品で、女性監督の映画に開眼しました。
「子供の手が離れたとき観た『森の中の淑女たち』と『アントニア』に、びっくりしました。
『森の中の淑女たち』は、おばあちゃんたちが森の中に取り残されてしまって、自力で脱出する物語。それまで、こんな風におばあちゃんが取り上げられたことはなかったので、衝撃を受けました。『アントニア』は、フェミニズムの思想がはっきり出ていたということ。こんな風に作れるのかという衝撃で、以来10年、女性監督に注目しています」。

□デイズニー映画は、子どもの目からもウロコでした。
「漫画でなくて、『ポリアンナ』とか『罠にかかったパパとママ』も楽しかった!」と、目を輝かすのは、若林さんです。
ディズニー映画は、家庭が違う、ドレスが違う、お庭が違う・・。どれもチャーミングで、そういう世界もあるんだ!と、子どもながら目からウロコだったそうです。勿論、ディズニー漫画は、少女たちの心を虜にしました。「母の長いスカートをはいて、鏡の前でクルクルまわったり、ひとりでうっとりした記憶は鮮明です」と、矢崎さんの視線は遠くに飛びました。

□塩沢さんが、デザイナーとして衝撃を受けた映画。
「本当にびっくりしたのは『天井桟敷の人々』、それから『羅生門』。撮影の技術とか、
ビジュアルヘのショックですね。光の影の感じとか、コントラストとかが、今までとはあまりにも違ってましたから。
それと、『2001年』、これは、SFの原形ですが、ビジュアルが凄かった。最近では『マトリックス』のシリーズに感動しました」。塩沢さんの受けた衝撃は、女の人の生き方にもありました。例えば、『天井桟敷の人々』に出てきた女の人が、「私に障らないで。私、芸術品よ」という台詞があったそうです。
「女の人って、そう言う風に考えていいんだってことにショック。印象的でしたね」。
塩沢さんが受けた次なる衝撃は、黒澤映画。「黒澤監督って、男の人を描くけれど、登場する女の人がすごく強い。凄く近代的で、義理人情なんか全然なくて、自分で人生を切り拓いていくタイプなのよ」と、その印象の大きさを語ってくださいました。

□映画じゃないと、怖くて見ていられない世界がある。                                                 「『13日の金曜日』、こわかったわぁ!」「いまだにゾッとするのは、トリフォーの『華氏451』。本を読むのは悪だという風に、焼かれてしまって、情報がコントロールされた世界になる話」「随分前だけれど、『2001年』は、ある程度根拠があっての新しい発想じゃないかって半分信じる気持。SFの原形だけれど、未知の世界を哲学的に描いていて、ショックでしたね」etc.。
予測できないことに直面させられる怖さと、そんなことを発想できてしまう人たちにゾッ!

4.見たい映画/見たくない映画

私たちはもう不快な刺激には耐えられない

●夢と元気をもらえる映画が好きです。
壮大なスペクタクル、『ラストエンペラー』『アラビアのロレンス』『風とライオン』『風と共に去りぬ』。あと味いいもの、『コットンクラプ』『レオン』『アマデウス』・・

●人閻の気持に触れて、泣けちゃう映画、大好き。
箪頭は貨さんのシリーズ。H本人の原風景への懐しさに思わず泣いたり笑ったりが心地いい。山田洋次監督は役者の使い方にも感動する。

●唯ひだすらキレイ美しいものに眈っていたい。
画面いっぱいに花が広がる『秘密の花園』、英国文化が背景の『モーリス』『フォーウェディング』。美しい男、美しい森らし、美しい会話、ウィット・・おしゃれで気持がいい。

●見たくないのは、中高年の恋愛映画。切実すぎる老人映画。
ラブロマンスなら、見た目も 美しい若い人のものがいい。現実をふり返させられる映像やテーマを求めて、映画館に行きたいとは思わない。

「寅さんシリーズ」への涙は、一体感です。

映画館では見ていなくても、「寅さんシリーズ」には、みんな涙経験者です。「オイオイ泣くのではなくて、ホロッと泣くのね」
「どれ観ても、必ず泣いちゃう。体の中からクスッって笑いながら泣くの」
「寅さんシリーズ」の日は、夫も親も家中みんなで、すっかり幸せになってしまうという不思議現象。一体感を引き出す映画なのでしょうか。
一体感といえば、最近は、女性をテーマにした映画が沢山あります。
『デプラウィンガーを探して』『8人の女たち』『永遠のマリアカラス』『真実のマレーネデートリッヒ』・・・50代女性たちは、今更映画に生き方を求めることはないものの、観たあとで、気持いい、幸せ気分になる映画が好き。波乱万丈であっても、それが究極の自分磨きだと、幸せ感を共有して映画館から出てくるのです。
そういえば、「中高年の恋愛映画なんか、観たくな~い!」の声については、「事情がどうあろうと、見た目キレイは、恋愛映画の基本でしょ」「現実を考えさせられることになって、つまらないのよ」が理由でした。一体感が持てないのですね。

映画でまで、現実に直面したくないんです。

口老親を抱えていると、「介護映画」はダメ・・・                                                            若い頃、『悦惚の人』を観て、ただびっくりしたという塩沢さんは、つい最近介護を終えました。
終わってみると、あの映画がいかにソフトに感情を表現して、人間の優しさを伝えていたかを感じます。高峰秀子と森繁久弥でしたっけ・・自分の年齢や立場で、感じ方は違うと思うけれど、介護中はキツイでしょうね」と、振り返りました。
最近、岩波ホールで上映された『夕映えの道』も、なんとか楽しい老人映画はないものかとツライ気持で帰りました。けれど、この映画、70代前後の方々で満席状態でした。矢崎潤子さんは、「あの世代って、活字だろうが映画だろうが、貪欲に学ぽうとするでしょ。学びに行くんじゃないでしょうか」。
小野由理さんも、「岩波の映画といえば必ず行く人たちがいらっしゃる世代ですね。面白い劇場!」と、にっこり。
年は、取ってみなければ分りませんね。

□中高年の「恋愛映画」談議                                                                      「私たちの年代って、色恋沙汰より大切なことがあるのよね。むしろ、痛快な女の人が活躍するシリーズがいいな。第一、恋愛映画は異世界を鑑賞しに行くのだから、若い人のものがいい」と口火を切ったのは、若林みどりさんです。
矢崎潤子さんも、「ラブロマンスは青春ですもの、若い人たちのラブロマンスは楽しいでしょ。そんな映画を観たときは、自分が20代になって、すっかりその気になってる。それがいいんですよ」と続けました。中高年の恋愛映画で話題に上ったのは、『失楽園』『マディソン郡の橋』。「『失楽園』、あれキライ!どうして流行ったんだろう?」「あれは、新聞で男性たちが読んでて、男性たちの話題だったの。男性たちの願望の世界だったのよ。女の人は、何を騒いでるのかなって、覗いただけ。女の人は、あまりリアルに突きつけられると、エエッ!ですよ」。                                          大人の恋と言われて大ヒットした『マディソン郡の橋』は、どうでしょうか。「なんか逆に切実感があって、考えちゃったりして…。どうでもいいかな・・」と、塩沢圭子さん。
若林さんも、「腕のたるみとか見ちゃって・・やっぱり眺める楽しさで、恋愛映画に浸りたいかな」と、どうせ見るなら夢と元気につながる映画という姿勢でした。

□どうせなら、80歳前後の人生謳歌Iぶりを観たい!
雑誌でも、あまりリアル過ぎるとダメだそう。シワや体形のゆがみがある年代用でも、モデルまで同様では、見たくないという心理が働くといいます。
「いっそ自分より30歳も年上の方の元気に出会える映画が観たい」という声も上がり
ました。

ところで、『マディソン郡の橋』にほのぼの泣いた方がいらしたら、ごめんなさい。

5.小野由理さんがお勧めする、女性像映画です。

2003年は、日本で上映された作品の中で女性監督の作品が例年以上に輝いた年でした。その中から、少女から老婆まで様々な女性像をみせてくれた作品を10本ご紹介します。

『クジラの島の少女』(監督:ニキ・カーロ/ニュージーランド)
ニュージーランドの小さな村に伝わる英雄伝説。村を救う勇者は、たくましい男性ではなく、感受性の鋭い少女だった。祖父が係娘の存在を認めるまでの葛藤が感動的。

『蛇イチゴ』(監督:西川美和/日本)
結婚H前の女性の前に、あるH突然不幸が襲う。家族にとっで汚点のような兄が帰ってきて、結婚の夢も消滅。怒りの矛先を兄に向けたとき、人生の向こう側が見えてきた。

おばあちゃんの家』(監督:イ・ジャンヒャン/韓国)
母の都合で、田舎のおばあちゃんの家にあずけられた少年。言葉の出ない祖母との生活に戸惑うが、やがて祖母の深い愛情を感じて心の成長をとげる。祖母の後ろ姿が美しい。

『沙羅双樹』(監督:河瀬直美/日本)
子どもの失踪。かけがえのない者を失った家族の喪失慇はなかなか癒えない。時間は過ぎ家族は成長し、新しい生命の誕生でまた再生の歩みが始まる。監督自身の出演も話題に。

『フリーダ』(監督:ジュリー・テイモア/アメリカ)
メキシコの情熱の女性画家・フリーダの生涯を、美しい色彩で描く映画そのものが絵画のような作品。愛する者に裏切られても、なお愛さずにいられない女と男の想いが印象的。

『名もなきアフリカの地で』(監督:カロリーヌ・リンク/ドイツ)
ナチスに追われるユダヤ人が、生き延びるために踏んだアフリカの地。夫は存在の尊厳を保てず悩むが、妻と娘は体で士地に馴染み、やがてかけがえのない地となる。
*アカデミー賞・最優秀外国語映画賞受賞作品

『デブラ・ウィンガーを探して』(監督:ロザンナ・アークエット/アメリカ)
ハリウッド女倭が34人、それぞれの個人的悩みをうち明けることで、それは個人的なことから女性の普逼的な存在についての哲学になる。裏ハリウッドを見る想いもする

『女はみんな生きている』(監督:コリーヌ・セロー/フランス)
共働きの中年女性が、ふとしたことで知り合った謎の女性の看病から思いもかけない大活躍。次から次と事件が起きて、謎また謎の連続はやがて売春組織との対決へ。エンターテイメント気分満載。

『死ぬまでにしたい10のこと』(監督:イザベル・コヘット/スペイン・カナダ)
23 の若さで死の宣告を受けたアンは、手板に死ぬまでにすることを10書き込む。今までみえなかった家族の姿、人生への深い愛と生きている手触り。見終わって自分の生を思わず実感。

 

 

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